
「よく噛む」ことが、脳の元気につながるとされるのをご存知ですか
奥歯で噛みにくさを感じる、高齢のご家族が固いものを避けるようになった——そんな変化に気づくと、噛む力と脳の関係が気になってきます。咀嚼は食べ物を砕くだけの動作ではなく、脳へ刺激を送る営みでもあると考えられています。この記事では、噛む刺激が脳に届く仕組み、歯の本数と認知機能の関連、毎日の食事でできる工夫、そして川崎市の歯科医院で相談できる内容までを整理しました。ご自身とご家族の将来を見据え、今日から始められるヒントをまとめています。
この記事の要点まとめ
- 噛む刺激は歯根膜や筋肉の働きを通じ、脳の血流や神経活動に関わるとされている
- 歯の本数や噛み合わせと認知機能には関連がみられ、入れ歯なども咀嚼機能を補う一助となり得る
- 食材の工夫や口腔体操、定期的な歯科ケアが日々の咀嚼習慣を支える
噛む刺激が脳を活性化する医学的な仕組み

子どもの頃に「よく噛みなさい」と言われた記憶、ありませんか。消化のためというイメージが先に立ちますが、咀嚼の役割はそこにとどまらないと考えられています。口と脳は神経で密接につながっており、噛むという反復運動そのものが脳への入力信号になっているとされます。
歯根膜から脳へ伝わる刺激と血流量の増加
歯は骨に直接くっついているわけではありません。歯根と骨のあいだには歯根膜という薄い繊維性の組織が挟まっています。厚さはわずか0.2mm前後。それでもここには圧力を感じ取るセンサーが密集しています。食べ物を噛んだ瞬間、硬さ・弾力・厚みといった情報が歯根膜でとらえられ、三叉神経を通って脳幹から大脳へと伝わっていきます。
もうひとつ見逃せないのが筋肉の働きです。咬筋や側頭筋が収縮と弛緩を繰り返すとポンプのような作用が生まれ、頭頸部の血流量が高まると考えられています。脳は体重の2%ほどの重さでありながら、全身の酸素の20%前後を消費する臓器。血流が促されれば、それだけ酸素やブドウ糖が届きやすい状態につながる可能性があります1。
つまり、噛むという行為は「歯根膜からの神経刺激」と「筋活動による血流の変化」という二つのルートで脳に働きかけていると考えられているわけです。
記憶や学習を司る海馬へのポジティブな影響
咀嚼中の脳を画像で観察した研究では、運動をつかさどる領域だけでなく、感覚野や前頭前野、記憶に関わる海馬周辺にも活動の変化がみられると報告されています。海馬は新しい記憶を整理して定着させる中枢であり、加齢の影響を受けやすい部位としても知られています。
動物実験では、咀嚼ができない状態に置かれた個体で海馬の神経細胞に変化が生じ、迷路課題の成績が下がる傾向が報告されてきました。人においても、咀嚼中に注意力や作業成績が一時的に変わるという報告があります。ただし、これらは「噛めば認知症を防げる」と言い切れる性質のものではありません。咀嚼という刺激が神経伝達や脳の活動水準に関与している可能性を示すもの——そう受け止めておくのが妥当でしょう2。
川崎市にお住まいで奥歯の噛みにくさが気になり始めた方は、この「入力の減少」という視点を持ってみてください。口腔ケアの意味合いが、少し違って見えてくるかもしれません。
歯の本数・噛み合わせと認知症リスクの関連
噛む刺激が脳に届くのなら、噛むための道具である歯が減ったとき、口の中では何が起きているのでしょう。ここでは残存歯数と認知機能をめぐる知見、そして失った歯を補う方法について整理します。
残存歯数の減少と認知機能低下に関する報告
国内外の疫学調査では、残っている歯が少ない方や、歯を失ったまま何も補っていない方で、認知機能の低下や認知症の発症率が高い傾向にあるという報告が積み重なっています。歯が20本以上残っている群と、歯がほとんどなく義歯も使っていない群を調べた調査では、後者でリスクが高まる傾向が示されました1。
背景にはいくつかの要因が想定されています。ひとつは咀嚼刺激そのものの減少。もうひとつは、噛みにくさから食べられるものが偏り、たんぱく質やビタミン類が不足しやすくなる点です。加えて、歯周病による慢性的な炎症が全身に及ぼす影響も、研究が進められている分野です3。
気をつけたいのは、これらが因果関係を確定させたものではなく「関連がみられる」という段階の知見だということ。それでも、歯を守っていくことが将来の選択肢を広げる方向に働くと考えられます。
【よくある誤解】入れ歯やインプラントでも咀嚼刺激は回復できるか
「天然歯を失えば歯根膜もなくなる。だから脳への刺激は戻らないのでは」——そうお考えの方がいらっしゃいます。確かに抜歯をすれば歯根膜そのものは失われます。けれど、咀嚼刺激のルートは歯根膜だけではありません。義歯が歯ぐきの粘膜を押す圧覚、顎の筋肉が動くことで生じる感覚、顎関節からの情報など、複数の経路が脳へ向かっていると考えられています。
実際、先ほどの調査でも「歯が少なくても義歯を使用している群」は、何も入れていない群よりリスクが低い傾向を示しました。大切なのは、失った部分をそのままにせず、その方に合った形で噛む機能を整え直していくことです。入れ歯、ブリッジ、インプラントと選択肢は複数あり、残っている歯の状態や骨の量、通院のしやすさ、費用感によって向いている方法は変わってきます。
なお、合っていない入れ歯を使い続けると、痛みを避けて噛む回数が減ったり、片側だけで噛む癖がついたりすることがあります。装着後も定期的に調整を受けること、インプラントを選んだ場合は術後の清掃とメンテナンスを続けること。機能を保っていくうえで、この二つは欠かせません。作って終わりではない、という点はぜひ覚えておいてください。
日常で実践できる!脳を刺激する咀嚼習慣と食事の工夫

仕事に追われていると、食事はどうしても手早く済ませがちです。噛む回数を増やそうと意識しても、意志の力だけではなかなか続きません。そこで役立つのが、環境や調理法のほうを変えてしまう発想です。
食材の切り方や選び方で「一口30回」を促す調理法
よく耳にする一口30回という目安。意識するだけだと、数えることに疲れてしまいます。むしろ、自然と回数が増える食事の形をつくるほうが現実的でしょう。
- 切り方を大きめに:根菜や肉は乱切り・そぎ切りに。同じ食材でも一口あたりの咀嚼回数が変わります
- 加熱時間を少し短く:野菜は歯ごたえが残る程度に。煮込みすぎない
- 食物繊維の多い食材を足す:ごぼう、れんこん、きのこ、切り干し大根、雑穀を混ぜたごはんなど
- 汁物と主菜を交互に:流し込みを防ぎ、一口ずつ区切りができます
- 箸を一度置く:噛み終わるまで次を口に運ばない、というシンプルな習慣
食器を小ぶりにする、テレビを消して食事に集中する。こうした工夫も、結果として咀嚼回数の増加につながりやすくなります。40代・50代のうちから生活習慣を整えておくことは、将来の口腔機能の変化への備えとしても意味があると考えられます1。
ガムの活用と簡単な口腔体操による機能トレーニング
「ガムを噛めば認知症予防になりますか」というご質問をいただきます。ガム咀嚼中に脳の活動や注意力が変化するという報告はあるものの、予防効果を断定できる段階ではありません。それでも、唾液の分泌を促し、顎の筋肉を使う機会を増やす手軽な方法として取り入れる価値はあるでしょう。キシリトールを使った無糖タイプを選び、食後や集中したい作業の前に5〜10分程度、左右バランスよく噛んでみてください。顎関節に違和感がある方は無理をせず、歯科医院にご相談を。
あわせて、口の周りを動かす口腔体操も習慣にしやすい方法です。
1. 「パ・タ・カ・ラ」と大きく口を動かしながら各5回ずつ発声する
2. 頬を膨らませる/すぼめるを交互に10回
3. 舌を上顎に押し当てて5秒キープ、3セット
4. 口を大きく開けて5秒、ゆっくり閉じるを5回
どれも1〜2分で終わります。高齢のご家族に声をかけるときは「訓練」と伝えるより、食事前の準備運動として一緒にやるほうが受け入れられやすいかもしれません。運動習慣や十分な睡眠、人と会話する機会と組み合わせれば、生活全体の底上げにもつながっていきます。
健康寿命を延ばすための歯科ケアと受診の目安
噛む習慣を整えようとしても、土台となる歯や噛み合わせに不具合があれば思うようには進みません。最後に、受診を検討する目安と、歯科医院で受けられる相談内容をまとめます。
噛みにくさやむし歯を放置するリスクとセルフチェック
奥歯にむし歯や欠けがあると、痛みを避けようとして反対側だけで噛むようになりがちです。片側噛みが続けば、使わない側の筋肉が衰え、噛み合わせのバランスにも影響が及ぶことがあります3。まずは以下の項目で、ご自身とご家族の状態を確かめてみてください。
- 半年前と比べて、固いものを避けるようになった
- 食事の時間が以前より短く(または極端に長く)なった
- 食べこぼしやむせることが増えた
- 入れ歯が動く、当たって痛い箇所がある
- 左右どちらかでばかり噛んでいる自覚がある
- 滑舌が変わった、口が乾きやすい
いくつか当てはまるなら、口腔機能の変化が始まっているサインとして、早めに歯科医院で確認することをおすすめします。「年のせい」で片づけず、原因を切り分けることが大切です。ご家族に受診を促すときは、「一緒に検診に行ってみない?」と自分ごととして誘う形が自然でしょう。
よつば歯科・矯正歯科 溝の口院での噛み合わせ相談と定期管理
当院では、なるべく削らない、抜かない治療を心掛けております。院長の藤林が目指しているのは、一生ご自身の歯で食事を楽しんでいただくこと。そのために欠かせないのが歯をできるだけ多く残していくことであり、噛み合わせを含めた口全体の状態を長期的に管理していく姿勢だと考えています。
診査では口腔内カメラで実際の状態をご覧いただきながら、どこで噛めていないのか、どの歯に負担がかかっているのかを一緒に確認します。必要に応じてセファロレントゲンによる骨格の評価も行い、噛み合わせのバランスを多角的に把握していきます。
当院の特徴として、院内技工を行っている点が挙げられます。歯科技工士が常勤で在籍しているため、詰め物や被せ物、入れ歯の製作・調整にあたって歯科医師と直接打ち合わせができます。セレックシステムを用いた修復物でも、色調のなじみや適合について技工士と細かくすり合わせながら進められる。院内に製作環境があるからこその体制です。合わない入れ歯の微調整にも、その場で対応しやすくなっています。
溝の口駅・武蔵溝ノ口駅から徒歩4分、川崎市高津区下作延に位置し、バリアフリー設計で車椅子やベビーカーでもご来院いただけます。器具はクラスBの高圧蒸気滅菌器で処理するなど、衛生管理にも配慮しております。噛みにくさが気になる方も、ご家族の口腔ケアでお困りの方も、まずはお気軽にご相談ください2。
よくある質問
Q1. 咀嚼と認知症には、どのような関係があるのですか?
A. 残っている歯の本数が少ない方や、歯を失ったまま補っていない方で、認知機能の低下がみられやすいという報告があります。咀嚼刺激の減少、栄養の偏り、慢性的な炎症などが関与すると考えられていますが、因果関係が解明されたわけではありません。関連が示されている段階と捉えたうえで、口腔ケアを続ける動機にしていただければと思います。
Q2. ガムを噛むと認知症予防になりますか?
A. ガム咀嚼中に脳の活動や注意力が変化するという報告はありますが、予防効果を断定できる根拠はまだ十分ではありません。ただ、唾液の分泌が促され、顎の筋肉を使う機会も増えます。無糖タイプを食後に5〜10分ほど噛む習慣は、取り入れやすい方法といえるでしょう。顎に違和感がある場合は控え、ご相談ください。
Q3. 咀嚼をすると脳のどの部分が活性化されますか?
A. 運動をつかさどる運動野、感覚を受け取る感覚野のほか、判断や集中に関わる前頭前野、記憶に関わる海馬周辺などで活動の変化が報告されています。歯根膜のセンサーからの信号が三叉神経を通じて広く伝わることが、その背景にあると考えられています。
Q4. 高齢の家族の咀嚼力を維持するには、何から始めればよいでしょうか。
A. まずは入れ歯や残っている歯の状態を歯科医院で確認することをおすすめします。合わない入れ歯のままでは、食事をどれだけ工夫しても噛む回数は増えにくいためです。そのうえで、食材の切り方を調整する、パタカラ体操を一緒に行う、会話しながらゆっくり食べる。こうした習慣を無理のない範囲で続けていきましょう。
Q5. 噛み合わせの相談だけでも受診できますか?
A. はい、痛みがない状態でのご相談も承っております。噛みにくさの自覚がある段階でお越しいただくほうが、選べる対応の幅は広がります。現在のお口の状態をご説明したうえで、必要な処置や経過観察の方針をご提案いたします。
参考文献
1. 厚生労働省「健康づくりサポートネット(疾病・健康に関する情報)」 https://kennet.mhlw.go.jp/information/
2. 厚生労働省(政策・健康情報の入口) https://www.mhlw.go.jp/
3. 日本齲蝕学会 https://www.jacd.jp/
国立東京医科歯科大学歯学部 卒業
国立東京医科歯科大学大学院 入学
国立感染症研究所協力研究員
足立区歯科医師会指導医
国立東京医科歯科大学大学院 卒業(博士号取得)
公益財団法人日産厚生会玉川病院 勤務(歯科医長)
川崎市溝の口にて「よつば歯科・矯正歯科溝の口院」 開業
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